チェンジリング
2008/??/??

もうさ、そこはすごい田舎なの。もちろんコンビニなんてないよ。
道の端に石碑が立ち並んでいたり、山の麓には小さな祠があったりして、
民家はみんな茅葺き屋根で、川はとても澄んでいて、とても静かでのどかな場所。
子供たちは虫取り網を持って田んぼのあぜ道を走り回る。
コンクリートの階段に座り込んでゲーム? そんな光景はどこにもない。
車もほとんど通らなくて、お婆ちゃんが畑仕事をするそばで犬が吠えてるんだ。

私はね、立派な朱塗りの橋を渡ったの。
その橋の下を流れる川では、子供たちが遊んでいた。魚を捕っていたのかも。
橋を渡りきると紅い鳥居があってね、その奥にはお社と、それからその横に古臭い蔵があった。
その神社の周りは樹に囲まれていて、太陽に照らされた緑がとても綺麗だったよ。

この村を訪れてから1時間近くも歩き回って、さすがに疲れた私はそこでちょっと休憩することにしたんだ。
日影もあるし、川のサラサラ流れる音が涼しげで、一休みするには絶好の場所。
持ってきた水筒のふたに麦茶を注いで、一息に飲み干した。
二杯目を飲もうとしたらね、声が聞こえたんだ。
蔵の方から。
開けて――って聞こえた気がしたんだけど、きっとそれは正しかったんだと思う。
私は何の疑問も持たずにその蔵の方へ歩いて行ったの。

そして、私は蔵の扉を開けた。

頑丈な錠前がついていたようにも思うんだけど、それはすんなり開いてしまった。
そう、開いてしまったの。
どうしてだろうね。
中から開けることは、絶対にできないのに。
今も。

だから君にこの手紙を送ることもできないし、
今、君の隣にいるそれは本当の私じゃないよ、と伝えることもできないの。

もしも――

もしも君が気付いてくれたら、きっと助けに来てくれるって信じてる。

私は、ここにいます。

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