もうさ、そこはすごい田舎なの。もちろんコンビニなんてないよ。 道の端に石碑が立ち並んでいたり、山の麓には小さな祠があったりして、 民家はみんな茅葺き屋根で、川はとても澄んでいて、とても静かでのどかな場所。 子供たちは虫取り網を持って田んぼのあぜ道を走り回る。 コンクリートの階段に座り込んでゲーム? そんな光景はどこにもない。 車もほとんど通らなくて、お婆ちゃんが畑仕事をするそばで犬が吠えてるんだ。 私はね、立派な朱塗りの橋を渡ったの。 その橋の下を流れる川では、子供たちが遊んでいた。魚を捕っていたのかも。 橋を渡りきると紅い鳥居があってね、その奥にはお社と、それからその横に古臭い蔵があった。 その神社の周りは樹に囲まれていて、太陽に照らされた緑がとても綺麗だったよ。 この村を訪れてから1時間近くも歩き回って、さすがに疲れた私はそこでちょっと休憩することにしたんだ。 日影もあるし、川のサラサラ流れる音が涼しげで、一休みするには絶好の場所。 持ってきた水筒のふたに麦茶を注いで、一息に飲み干した。 二杯目を飲もうとしたらね、声が聞こえたんだ。 蔵の方から。 開けて――って聞こえた気がしたんだけど、きっとそれは正しかったんだと思う。 私は何の疑問も持たずにその蔵の方へ歩いて行ったの。 そして、私は蔵の扉を開けた。 頑丈な錠前がついていたようにも思うんだけど、それはすんなり開いてしまった。 そう、開いてしまったの。 どうしてだろうね。 中から開けることは、絶対にできないのに。 今も。 だから君にこの手紙を送ることもできないし、 今、君の隣にいるそれは本当の私じゃないよ、と伝えることもできないの。 もしも―― もしも君が気付いてくれたら、きっと助けに来てくれるって信じてる。 私は、ここにいます。 |
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