「生きてることに意味なんてあんのかよ」 タローは中学生のお手本とも言うべき思考をそのまま口にした。 九月の放課後、教室のベランダから薄紫の空を見上げる彼の右手は既に止まっている。コンクリートの上に広げられた問題集は、書き込まれるべき空欄の半分も埋まっていなくて、鉛筆の芯のカツカツという感触を待ちわびているようでもあったが、悩める中学生にとって提出期限のとうに過ぎた夏休みの課題なんぞは、ダンゴムシが排出する二酸化炭素量ほどの熱も入るはずがない。 「なあスガ、人間ってなんで生きてるんだろうな」 タローは、彼と同じように教室のベランダで期限切れの課題に取り組む友人に声をかけた。 心地よい風が吹く。夏が終わり、秋が始まろうとしていた。十四歳の秋。一瞬で過ぎ行くその季節は、未来の彼らの目にどんな風に映るのだろう。それは少年たちには想像し難いもので、今はまだその掛け替えのなさに気付くことはない。 タローは右を向く。スガはうなだれ、彼の問いかけに答える素振りを一切見せない。 「おい寝てんのかよ!」 スガの特技は寝ることだった。彼は、時と場所と己の姿勢を問わずに寝られる、睡眠のプロフェッショナルだ。夕方、ベランダ、胡坐座りと、居心地の良い要素が三つも揃っている今、スガにとって寝ることは赤子の手を優しく包み込むよりも容易なことだった。 |
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